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Kaleido/m@ster参加作! 『ごめんのかわり』

ギリギリになってやっとこさ書き上がりました。正直ほとんど煮詰められませんでしたが、まあそれなりの出来かなあとは思います。というかまともに読み返してないから、出来の良し悪しはよくわかんない!

企画告知(ガルシアP)
Kaleido/m@ster

脚本


『ごめんのかわり』

土曜の朝といったら街の賑やかなことだ。
ねずみ色のキャンバスに色とりどりの点画を成す若者たちの衣服。
大通りには車やバイクのけたたましいエンジンの破裂音、おおよそ中学か高校の学生たちの威勢のいい話し声。
そんな世間の騒ぎからは遮蔽された、防音材仕込みのこの妙にじめじめしたスタジオの部屋の空間では、2人のアイドル候補生がダンスレッスンに勤しんでいた。
春香と千早。体育館シューズがフローリングをこする音に、楽曲を流すCD。真正面の壁を覆う鏡には、染みたジャージ姿でステップを取る2人が映っている。
「わわっ」
春香が転んだ。大きなため息の後に少し間があって、CDの音が止まる。春香が手をついて起き上がろうとすると、その背中に千早の淡白な声が刺さった。
「今日でダンスは仕上げってわかってる?」
「……ごめん。もっかいいい?」
春香は苦笑いで許しを請う。千早はその目から顔をそらすと、もう一度露骨なため息をついた。
千早は苛立っているようだった。無理もない。春香がステップを乱したのはこのレッスン中でもう5度目か6度目かになる。その度にCDを止め、かけ直した。
今日の春香は調子が悪い。
平常時の春香は、そういつもいつもミスばかり犯しているわけではない。ダンスレッスンも始めてから既に1月は経っている。千早のキレの良いダンスの傍らで、春香のステップもかなりのレベルまで洗練されてきたし、レッスン中のミスも目に見えて減ってきた。昨日は3時間通しのレッスンで、ミスは2度しか出さなかったし、転倒は一度もしなかったのだ。
それがどういうわけか、今日は別人のような足取りの悪さだ。おまけに動作も鈍い。
「……一応もう一回やるけど、いい加減にしてくれない?」
春香が立ち上がると同時に、千早が棘を刺す。千早が機嫌を損ねているのは、春香から見ても明らかだった。春香は俯く。
「なんで昨日より動きが悪いわけ? ねえ」
千早がさらに問い詰める。
調子の悪い春香を案ずる心は、千早にも無いではない。だがそれを心配する以上に、千早は焦っていた。
予定では、ダンスレッスンは今日で終わりということになっている。そして来週からは歌のレッスンを始めてもらえることを、千早はプロデューサーと約束していた。
しかしダンスが仕上がらなければ、来週もその見極めのためにダンスレッスンを引き伸ばさなければならない。千早がそれを嫌がるのは言うまでもないことだ。
春香は返す言葉もなく、俯いて押し黙る。外面に全く反応が窺えないのがもどかしく、千早の苛立ちはじわじわと火気を帯びだした。千早の目が鋭くなり俯いた春香の目を睨む。少しの間を置いて、棘を強めた千早の口が開いた。
「ねえ、プロ意識ある?」
これが喧嘩の火の矢であるとは、苛立って冷静さを欠いている千早でもすぐに気がついた。しかしすぐに態度を変えて甘く出るわけにはいかない。まだ自分が攻撃する立場は続いている、という周囲の見えていない考えが春香を睨む目力を保たせる。春香はなおも動かない。
しんと静まったレッスンスタジオ。怒る教師としょぼくれる生徒のような空気が張り詰める。
時間が経つにつれ、千早の火が静まりだす。かわりに、春香を汚した罪悪が芽生え、それが徐々に強まる。いよいよ苛立ちと罪悪の強弱関係が入れ替わった。
しかし千早は動かない。とるべき行動が分からないのである。
後ろめたさを帳消しにすべく甘い態度をとるのは、軽薄で馬鹿な人間のやることだと考える。かといって真正面から謝れるほどには、千早の心は素直ではない。
罪悪感を覚えながらも、千早は自分を優位な立場に置くことに拘泥して、雁字搦(がんじがら)めになっていた。
しばらくの森閑とした雰囲気の後、千早はドアに向かって歩き出した。結局、彼女は逃げを選んだ。急ぐと負け犬のように見られかねない、という滑稽な懸念のために、その足取りはゆっくりとしていた。
春香は顔を上げる。千早はその視線の色を心底気にしながらも、それを気取られまいと、流れるような動作でドアを開け、そのまま廊下へと繰り出て行った。
(……大丈夫だから続けよう、って言いたかったんだけどな)
春香はドアをじっと見つめる。
しばらくして、部屋には再びCDの楽曲と、シューズの摩擦音が響きだした。


千早は廊下のベンチに佇んでいた。
先ほどのダンスレッスン部屋からは10歩も20歩も離れたベンチ。一直線に走る長い廊下の側面に広がった白塗りの壁の中に、くすんだ赤色のドアが見える。一人きりの廊下には時折外からの風が吹き込み、肌寒い。
千早は押し黙っている。無機質なタイル模様の廊下に視線を投げつつ、心にまとわりつく不快感を弄んでいる。
罪悪感ではない、不快感だ。千早はそう感じていた。
あのいざこざから既に時間が経ち、記憶が曖昧になってしまっている。だからあの当時に自分の心境がいかなる変化を辿ったか、それがどんな感情だったか、正確に思い出すことができない。
千早は一切頭を働かせることをやめて、ただ何もない虚空を眺めていた。そして時々不快感が押し寄せると、ぶつぶつと愚痴をこぼしていた。

カツンカツン、と廊下に足音が響きだす。
千早は顔を向けた。誰かが別のスタジオの部屋から出てきたようだ。遠くにその姿が見えた。
「あ、いた! 千早さーん」
美希がこちら向かって歩いてくる。ああ、美希は今日歌のレッスンだったっけ、と千早は無関心な記憶を掘り起こした。
「千早さんって今日さ、レッスン午前だけだよね? 午後ないよね?」
ベンチに到着した美希は断りもなしに千早の隣をとり、話を持ち出した。相変わらずの自分勝手さに千早は呆れる。
「そうだけd」
「お昼食べ行かない? 美希ねー、この前すっごいおいしい蕎麦屋見つけてきたんだって! 千早さんのためにさ」
勢い良く喋りたくす美希。
千早は眉を顰めた。といっても別に癪に障る単語があったわけではない。
(『私のために』?)
千早は蕎麦が好きである。もとい正確に言えば、最近最も気になっている食べ物である。最近のトーク番組の収録で、千早はそんなことを話した。しかしその番組はまだオンエアされていない。
(美希がそれ知ってるのって、おかしくない?)
事務所でも千早はこんな話をしたことはないし、レッスンスタジオでもしたことはない。まさか美希がトーク番組を収録していたスタジオに潜り込んで耳を立てていたはずもない。
「ねえ、あの、それ誰から聞いたの?」
美希は顔をきょとんとさせた。
「それって何?」
「その、私が蕎麦が好きだってこと」
「えーっとね」
千早はある可能性を予感して、美希の話を真剣に聞いた。
(もしかしたら、それが春香の動きが悪かった原因なわけ?)


スタジオ中に鐘が鳴り響いた。12時の合図。
春香は一人ダンスの練習を続けていた。ジャージの濡れ具合は先ほどの比ではなく、絞って水が出ない箇所は無いというほどである。
春香は楽曲に合わせて懸命にステップを踏もうとする。だが疲労から動きはますます鈍くなっていて、ふらつく身体で楽曲のリズムに追いつくことに必死になっていた。
そして転んでうつ伏せになった。
春香は起き上がろうとする。しかし長時間の運動による疲労はもはや限度に達していた。さらに空腹もあって、体の無力化に拍車をかける。ついに立ち上がれずにそのまま寝転んでしまった。
床の木目を間近に眺める春香。その視界に誰かの靴が割り込んだ。
「ねえ」
春香の頭上で声がする。
「明け方まで長電話してたって? 何やってんの」
春香が精一杯顔を上げると、千早の冷たい視線があった。
「ねえあのさ、今日がダンスレッスンってわかってたわけでしょ? それで長電話って何なの?」
「……美希から聞いた?」
歯の抜けた老人のような声で春香が返す。疲弊して倒れたところに説教がくれば弱り目に祟り目である。首の力が絶えて、春香はまた顔を垂れた。
「そうだけど」
「……やっぱり」
両手を重ねて額の下に敷き枕がわりにする。
「だって美希がさ……」
「うん」
「すっごい嬉しそうにしゃべるんだもん……千早さん、千早さんってさ……」
床の木目に向かって喋る春香。音の反射で千早の耳には辛うじて届く。その耳が声の違和感を感じ取った。
(泣いてる?)
春香がまた精一杯顔を上げると案の定目が潤んでいた。
「私だって……」
子どものように訴えかける春香。いや今の春香はまさに子どもそのものといえる。
意思に反して千早の心が揺れた。冷めた態度を取るつもりだったのが、甘く出ようとしてしまう。
それでもまだ意思を持ち堪え、千早は伝えるべき用件を切り出した。
「あのね、午後だけど、オフは無しだから」
「え?」
ぐずった声で返す春香。それに心をくすぐられて、千早の意思がまたもや揺らぐ。
「今日中にダンスレッスンを仕上げるの。レッスン再開するのは16時からね」
春香はまたぐでんと顔を垂れた。立ち上がれないほどの疲労をもたらしたダンスレッスンがまたあるとなればもっともらしい反応である。
しかしすぐに顔を上げた。それが自分の責任であることを、疲労した精神状態でも辛うじて認めることができたようだ。
「16時からはプロデューサーも来るって。それまでは自由時間、なんだけど」
「ん?」
千早はジャージのポケットを探り、鍵を取り出した。何の鍵かわからないが、形状からしてこのスタジオ内のどこかの部屋のものであろうことは春香にも推測がついた。
「これ、ミーティングルームB室の鍵なんだけど」
「うん」
「とりあえずそこで寝なさい。3時間くらい。まあ短いけど、寝ないよりだいぶマシだろうし」
用件を伝えきった千早の顔はどういうわけか紅潮していた。くすぐったさと奮闘した結果である。
恥ずかしいので別の思念にしがみつこうとすると、千早は朝のことを思い出した。
(……そういえば、まだ謝ってない)
足元を見ると、相変わらずうつ伏せに伸びた春香が頭をぐでんと垂れている。その後頭に詫びようとも考えたが、やはり千早は素直ではなかった。
恥じらいと良心の呵責とに揺られ、また顔を紅潮させた千早は、せかせかと部屋を出ようとした。すると、そのジャージの袖を春香の右手が掴んだ。
「あ、えっと……」
言いよどむ春香。その目が訴えることを千早はすぐに汲み取った。そしてため息を一つついた。
「……はいはい」
紐の切れた操り人形のように、ぐでんと垂れた春香を背中におぶって、千早は部屋を後にした。
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