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一枚絵で書いてみm@ster参加作品『朧げな光、二人の夜、散る桜』の解

前作の答です。一応こちらだけ読んでも楽しめるとは思いますが、前作を読まれていることを想定して書いたものなので、先に前作を読まれることをオススメします。あと課題絵も再掲。

第3回一枚絵で書いてみm@ster課題絵
(絵師:コミズミコ氏)

-1-
春の夜の公園、桜の朧げな光の中で、律子と千早は待っていた。二人の役目はこれから来るもう一人の友の、決意の行方を見守ることだ。
「寒いわねえ」
律子が呟く。春先の3月はまだ空気の寒暖が覚束ない。昨日はセーター1枚でも汗ばむほどの暖気だったのが、今は厚手のジャケットを羽織ってもまだ寒い。
「……」
千早は無言である。しばらく置いてたった一言を投げかけた。
「春香、どうなるかしらね」
「……」
沈黙が立ち込める。二人の淡い呼吸が澄み切った空気を白く濡らす。そしてすぐ溶けていく。
「あの子も、なんであのプロデューサーに惚れたのかわからないけど」
「……」
「私はその気持ちがよくわからないからなんだか微妙なんだけど……でも春香にとっては運命の分かれ道だし。応援はするつもり」
「……そうね」
千早がふとため息をこぼす。
春香の想いは実るか。それとも、無に還ってしまうか。『朧げな光』のような彼女の想いの結末は、まだ誰も知らない。

-2-
「……まだ、来ないわね」
律子は辺りを見回して言った。深く深く夜の闇だけが続いている虚空の中に、春香の姿は見当たらない。
「寒いし、早く来て欲しいんだけど」
「……」
「どこで油売ってんのかしら」
千早は首を垂れている。垂れながらぽつんと呟く。
「踏ん切りつかないのは、仕方ないんじゃないかしら」
律子は視線を横へ流す。
「まあ、それはそうかもね」
風が強くなって、二人はそろって身震いした。春香はまだ現れない。

-3-
「あ」
千早が声を上げた、その視線は歩み来る春香の姿を捉えていた。律子もその方角を振り向く。
「ごめん、待ったかな」
白い吐息を漏らしながら、独特の温かみのある声で、春香は挨拶代わりの詫びを送る。いいえ、と二人の口が揃うと春香が話しだした。
「やっぱ怖くてさー、なかなか決心つかなかったんだけどね」
「うん」
「行かないと何も変わらないって思ったら、やっぱ来なきゃいけないかなーって思ってさ。それにせっかくわざわざ呼び出したんだし」
春香は桜の木から遠方にある公園のベンチを見やった。一人の男性と思しき人物が携帯電話を片手に、ベンチの端に佇んでいる。紛れもない、今宵の春香の相手だ。
「これから、行くわけよね」
千早が重たげに口を開く。春香はうん、とかすかに頷く。
「行くんなら早く行ってやんなさいよ、プロデューサーも寒そうにしてるし」
律子が背中を押す。
「……そうだね」
春香はベンチの影に向けてぽつりとこぼす。再び桜の木の下に沈黙の気団ができ、三つの呼吸が重なる。数刻ののちに律子が痺れを切らす。
「行かないの?」
「……」
春香は口を開かない。千早はその脚を注意深く見つめていた。冷たい微風が脚を震動させている。
やがて、春香は一人で歩き出した。律子と千早は示し合わせたように、言葉も交わさず、その縮こまった背中を見送った。

-4-
ベンチから桜の木までは遠く、二人の交わす会話の中身はわからない。
「……」
律子と千早は無音のやりとりを黙って見守る。彼と彼女の、『二人の夜』。春香の想いは、実るか否か。
ふと目の前を何かが横切ったため、千早はそれに目をとられた。風に吹かれて桜の花びらが、ふわふわと体勢を変え、右に左に揺られつつ、舞い落ちて行った。既に落ちた数々の花びらがまばらに、地面に積もっていく。
「……」
再びベンチに向き直る。話されている言葉は聞こえない。ただ春香が手の位置をしきりに変えているだけが見て取れる。
律子は紙コップに汲んだ水を一口飲む。一息ついた口からは新たな言葉が生み出されない。沈黙は守られる。
しばらくして、春香の影が、立ち上がった。

-5-
立ち上がった彼女はベンチを離れていった。ゆっくりと重い足取り、しかし早くその場を去ってしまいたいと言いたげな、前のめりの姿勢。しらばくして彼女の体は夜の闇へ消える。
プロデューサーも立ち上がる。春香とは反対の方向へ、春香と同じように足取り重く、夜道に繰り出て行く。

-6-
律子と千早は二人を見送った。いまだ不動と沈黙。人影の失せたベンチを見つめていた二人は、形もない目の前の虚空に見入る。全てが終わった後の寂寥感。彼女の想いは『桜と散った』。
何の言葉も交わされない。何の合図もない。二人の思うところは、何もない。
冷たい微風が二人の頬を貫いていく。肌が震える。二人は、ただ舞い落ちる花吹雪の中に取り残されている。

-7-
無音を破ったのはぐう、と腹の鳴る音。二人は思わず顔を見合わせる。
「そういえば、何も食べてこなかったのよね」
「そうね」
いよいよじっとしてはいられないことを二人は悟る。律子は腕時計を一瞥する。
「……だいぶ遅いわね」
「早く帰らないとね」
二人は立ち上がる。公園の出入口を渡り、交差点を渡り、そしてそれぞれの帰路へ分かれる。無人になった公園には再び沈黙と深い闇が始まった。

人影もまばらな街の往来。その中を項垂れてとぼとぼと歩いている後ろ姿がある。
春香は、泣いていた。

(end)
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はじめまして。

「解」を含めて一つの作品だと言う解釈ですが、
前半の解釈を巡る展開と、「解」へのリンクが
綺麗にはまっているところが何とも心憎い。
あえて春香と「彼」の間のことを輪郭から書くことで
二人の間に起きたことを描写する、それによって
直接的ではない、滲んだ絶望感が生まれるような
感じが致しました。

ようやくの初コメに感激!

> 微熱体温氏

『朧げな光、二人の夜、散る桜』の方に仕組まれたパズルにお気づきになったということかな?
最初は1作だけで済ませようと思ったんですが、読み直してみて「これじゃよくわかんないな」と思ったので、『解』と称して前作に隠された物語を書き直したわけでした。

前半のみんなの想像を元に、解を読み解いていくと
それぞれの視点に立っての解答が どれも外れているようで
どれも何かしら間違っていない すべての解答を混ぜ合わせて
それを均等に割れば・・・・  それでもきっと答えは違っている

解るはの、当事者だけなんでしようねぇ

拝読致しました

初めまして。一枚絵企画に参加している小六と申します。

二つのSSがあって初めて意味がつながる物語。そのかけ橋は一枚絵。
一枚絵をテーマにしてSSを書くという意味では、本当に一枚絵のイメージをモチーフにして書かれた正統派で誠実なSSだと思いました。
前者のSSで各アイドル達が連想したイメージを、後者のSSで漏れることなく回収して一つのストーリーにしたその構成力に嫉妬してしまいそうです。
ストーリーも申し分なく、春香さんとP、二人を見守る千早さんと律子さん、、少女の淡い恋という物語・・・心に響きますね。
素晴らしいSSをありがとうございます!

拝読させて頂きました。

前作を読んで、ぼんやりと浮かんでいた寂しいイメージが、
本作である解を合わせることでクッキリと浮かびました。

「千早と律子」について思考する他のみんな(前作)と、
「春香とP」について思考する千早と律子(解)、という構成が面白かったです。
ラストは同じなのに、いろんな子の考えを重ねてから見ると、雰囲気が変わりますねー。


> トリスケリオン氏
主催お疲れ様です、そして感想ありがとうございます! うーむ、やっぱり説明不足だった気がします。
前作のパズルも是非探してみてくださいな。

> 小六氏
感想ありがとうございます!
アイドルたちがこれが何の絵か議論していると見せかけて、それが実は1つのストーリーになっているというアイディアは風呂場で思いつきました。思いついたら後は勢いでしたw

> 寓話氏
> 前作を読んで、ぼんやりと浮かんでいた寂しいイメージが、
> 本作である解を合わせることでクッキリと浮かびました。
そう、まさにそんな感じなんです。本当は前作1つだけで全てをわからせようと思っていたのですが、書き上げてみてそれは無理だと思ったので、本作を付け足したんですよね。

やんわり。

前作の内容を拝見して、全員の発言が必ずしも排斥関係には無かったので、
こんな感じならつながるかなぁ、とは漠然と考えておりました。
まさかの解答編に驚きつつ。

春香を遠くから見てるだけの2人が切ないですね。
なんの助けが出来る訳じゃない。どう慰められる訳じゃない。
みんながバラバラになる終わりに、たまらない寂寥感を感じました。

> ガルシアP
返信遅れて申し訳ない。
前作で隠されたストーリーを探してくださったというコメントは初めてですね。嬉しい限りです。
ラストは仰る通り、なんかこう寂しいですよね。

発言の順番が春香でUターンしてるように読めて、面白いなと思いました。

いや待て、それだと2週目ミキのky加減が(ry

> 通りすがり氏
斬新な解釈だなあw
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アミオP/弱気P

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