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SSその2 (モ~ソ~というには、流石に堅苦しい気がした)

私はのんびりした調子でとある街路を歩いていた。向かっているのはこの南北に伸びた平坦であまり広くはない通り沿いにある、平均的なものよりもやや小さめの小奇麗な喫茶店で、私はそこである人物と会う約束をしていたのである。
その人はこういった約束のときには先天的な癖のように迷子になり遅刻してくるので、一応礼儀として定刻通りに到着すれば、ナンタラ分前行動なんて生真面目なことまでしなくてもよいと考えていたのだった。
だから、その定刻に私が喫茶店に辿り着いたとき、その人が既に扉の前に佇み、私に手を振って迎えているのを見たときは、甚だ不意を突かれた。
「あらプロデューサーさんこんにちは」
彼女は私を見るなりにこりと笑みを見せた。
「思ったより随分早く着いたんですね?あずささん」
「ええ、やっぱり言われましたね」
彼女、三浦あずさはやや顔を引っ込めて、しかし少しだけ勝ち誇ったような口調で、打ち負かされたというような苦笑いを見せた。
「失礼ですがね。でも意外ですよやっぱり、遅れずに来てるのは」
「ふふ、あまり見くびらないでください、ここは私が小さいころよく通っていた道ですから」

彼女の実家はこの通りを喫茶店から真っ直ぐ南へ10分ほど歩いた所にあるマンションだ。
まだ幼くて幼稚園の世話になっていた頃、彼女は両親に母の実家、いわゆるおばあちゃんちへよく遊びに連れて行ってもらっていたそうだ。
そのおばあちゃんちは、同じくこの通りを喫茶店から今度は北へ15分ほど歩いた街外れにある民家であった。
つまりこの道路は彼女の“おうち”と“おばあちゃんち”を直に結ぶ片道25分の散策コースであった。
「おばあちゃんの家では、うーん、まだ昔ながらの遊びが流行ってましたね、かるたとか独楽とか」
「懐かしいですね」
彼女はここを何度も何度も歩いた。
その頃はまだ古めかしい駄菓子屋や商店があちこち看板を張っていたそうで、彼女はそれで漢字を覚え、また野菜や菓子の名前を覚え、その各々の値段まで覚えてしまったそうだ。
「……“浅田商店”のきゅうりは42円、キャベツは76円、“べえごま屋”の『たこせん』は11円だったかしら」
「へえ」
彼女はこの道の何もかもを覚えた。
そしてそれはいつの間にか彼女には自分の箱庭のようにすら思えていたのだった。

「今でも、例えば駅に行くときなんて、この道から二本くらい入ったところだったなとか、そういうふうに目印を立ててるんですよ」
「なるほどなあ」
「ふふ、居酒屋でどれだけでろでろに酔いつぶれてても、自分の足で実家に帰り着くくらいなら自信はあるんですよ」
私は通りをさっと南北に目を走らせた。
半端に背の高いマンションだけが軒を並べている、一見すればどこにでもあるような、なんの面白みもない道路。
しかし、彼女三浦あずさにとって、この道は他に代わりがありはしない、生涯たった一つの“世界の中心”なのだ。


(※)商店や駄菓子屋の名前は架空のものです。
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